日立電鉄線乗車記
3月いっぱいで廃止になる日立電鉄線に乗りに出かけた。ちょうど1週間前には「茨城王(イバラキング)」の青木智也さん主催の「日立電鉄ツアー」が開催された(レポートは24日付の朝日新聞にも掲載された)が、大勢で動くのがあまり好きでないのと、参加費用がいささか高額だったことから見送った。乗りに行くのを今日にしたのにはもう一つ理由がある。今日は偉大なる鉄道紀行文作家である宮脇俊三氏の3回忌に当たる日である(永眠した時刻である午前8時3分にはもちろん黙祷した)ので、先人にささやかながら敬意を払った次第である。宮脇氏は「時刻表おくのほそ道」の中で日立電鉄線に乗っている。
まず東海から電鉄線の接続駅である大甕に出る。ホームに降りると、やはりカメラを持ったご同輩が数名見受けられた。とりあえず全線のうち、大沼-鮎川間が未乗区間であったため、9時54分発の鮎川行きに乗り込む。鉄道ファンの習性で、運転台の右後ろにかぶりつくように立っていたら、運転士氏に「そこには立たないでください」とやんわり注意され(立っていた場所には運転士が切符を回収するための窓があった)、すごすごと立ち位置を移動した。
未乗区間に入り、河原子駅付近では、かの「トリビアの泉」で紹介されたこともある「高さの変わる歩道橋」(おそらく日立市民は誰でも知っている)も見えた。桜川駅で休日出勤と思われる定期券の客数名が降りて、10時7分に鮎川着。駅名表示板は長年潮風におあられてきたためかえらく錆びついていた。次の常北太田行きは10時38分である。
ここでちょっとしたトラブル発生。財布の中には真新しい野口英世の新千円札しか入っていなかったのだが、鮎川駅の券売機ではこれが使えなかったのである(廃止が決まった頃に流通し始めたから当然と言えば当然だが)。この駅は無人駅のため、窓口で両替してもらうわけにも行かない。結局駅の外にある新札対応の自販機で缶コーヒーを買って、なんとか常北太田までの切符代700円を捻出した。
何もないとは聞いていたが、鮎川駅周辺で見るべきものは何もなかった。もともと日立電鉄が買収する前は「常北電気鉄道」として大甕-久慈(現・久慈浜)間、久慈浜-常北太田間が段階的に開業した路線だった。本来は日立まで伸びる予定だったのだが、結局鮎川止まりになったという。このあたりの歴史については、小川野田西さんの「茨城の鉄道趣味のページ」の日立電鉄の項に詳しいので、そちらをご覧いただきたい。
駅舎やら車両やらを撮っているうちになんとか時間がつぶれ、来たときよりも多めの客を乗せて、常北太田行きは定刻に発車した。さっき鮎川まで乗ってきた車両がそのまま運用される。2両編成の後部車両に腰を落ち着ける。大甕からはやはり廃止を機に乗りに来たと思われる客がどっと乗り込んできた。
久慈浜を過ぎ、立体交差で常磐線の下をくぐると、周囲の風景はほとんど田んぼばかりになった。24日の深夜から早朝にかけて降った雪がまだ溶け残っているのが見える。時折沿線に三脚を立てて列車を撮ろうと待ちかまえている人が見られる。常北太田が近づくにつれて、次第に乗客が増えていく。いわゆる「記念乗車」ではなく日常的に利用している人なのだろう。
そんな単調な沿線風景を眺めているうちに、電車は11時22分に常北太田に着いた。乗降ホームの向こうには、現在運用されているタイプの車両に混じって、古い車両がぽつんと静態保存でもされているかのように止まっていた。
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