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2006.11.28

『そして殺人者は野に放たれる』

 特撮もののテレビシリーズのひとつ「怪奇大作戦」で、現在欠番扱いとなっているエピソードが1本ある。第24話『狂鬼人間』がそれだ。犯人は“脳波変調機”で一時的な精神障害者を作り出し、殺人を起こさせる。殺人を犯しても、刑法第39条第1項にある「心神喪失者の行為は、罰しない」が適用されて無罪放免となってしまう。SRI(科学捜査研究所)は犯人を追いつめるが、犯人は自ら脳波変調機で永遠の狂人になってしまい、このエピソードは嫌な後味を遺したまま幕を下ろす。

 特撮ものとは関係のない立場から『狂鬼人間』封印への経緯を探った「封印作品の謎」(著・安藤健二)で、おれは「そして殺人者は野に放たれる」(著・日垣隆)の存在を知った。日垣氏は、自著についてこう語っている――

 本書は、愉快な書物ではありません。あまりにも深刻な事件が多すぎて、ご気分を害することもあるでしょう。けれども、「正常と異常の境界線はどこにあるのか」「なぜ人は罪を犯すのか」は、おそらく人間にとって大切なテーマだろうと思います。(文庫版あとがきより)

 実際に読んでみると、「日本という、この国の司法制度はいったいどうなっているんだ?」という著者の怒りが痛いほど伝わってくる。「通り魔殺人で4人もの命を奪った犯人が『覚醒剤を使用していたこと』を理由に刑を軽減された」とか、「客の乗ったバスに放火して6人を殺した犯人が『多量のアルコールを摂取して酩酊状態にあったこと』を理由に刑を軽減された」……なんて事例が次々と暴き出される本である。愉快になれるわけなどない。ましてや前述の2人は判決で心神耗弱が認められると「してやったり」とばかりに笑みを浮かべたという。

 日垣氏は刑法のみならず、それを運用する側にも容赦ない刃を振るっている。検察は「起訴しても無罪判決を下されては出世に響く」という理由から、39条が適用されそうな案件については起訴そのものをしない。弁護士はなんとか39条が適用されるように被告人を誘導する。裁判官は何事にも「まず判決ありき」で、自分の頭でものを考えない(引用されている判決文の悪文ぶりには頭が痛くなる)。こんな状態でまともな裁判が執り行われるとはとても思えない。現行刑法が運用される限りは――少なくとも第39条が削除されるまで――どのような立場であれ、彼らのご厄介にはなりたくないものだ。

 さて、冒頭に挙げた『狂鬼人間』のケースであるが、もし実行に移されてしまったら犯人にはいかなる処分が下されるのか? けっこう真面目に考察したものがWikipediaからリンクされている。

11月29日追記:この題材を取り上げるのに前後して、連邦でも『狂鬼人間』が取り上げられた。もちろん偶然の一致。リンク先のYouTubeの映像はいつまで見られるか分からないので、これを機に見てみるのも封印作品を見る手段のひとつではある。

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コメント

久しぶりに狂鬼人間を目の当たりにしましたよ。

精神異常者は責任能力無いから罪に問えないってのは、そのせいで狂わされた人に取っては腹正しいこの上ないでしょうね。

この手のニュースをテレビで見る度に思うのですが、「じゃぁ、あんたは同じ目に遭った時にあきらめれるのか?」と問い詰めたくなってしまいますわ。

心神喪失者といい、少年といい、やったことに関しては償わせるべきだと思いますね。心神喪失者には効果がないかも知れないですが。


もっと直すべき箇所が有る法律を、国に見直して欲しいところですね。

投稿: Fear ウルフ | 2006.11.29 23:24

困ったことに、この種の裁判で登場する「精神鑑定人」という人たちは、被害者感情というやつをまるっきり忖度してくれません。加害者側のジンケンは必要以上に強調するのですが。

ちなみに日垣氏は「封印作品の謎」で取材を受けたときには、『狂鬼人間』の内容について「精神障害と殺人がイコールで結び付けられてしまっている」と批判的なコメントをしています。往年の東宝特撮ファンにはおなじみ、大村千吉氏のホンモノすれすれの怪演が見られる日本刀男はちょっと、ねえ…。

「そして~」で相当にニッポンの司法制度に疑問を抱いたところで、おれはもう一冊、別な視点から怒りがこみ上げてくる本を手に取ることになりましたが、これについては項を改めて言及したいと思います。

我が家には「発売当日に回収指示が出た」という曰く付きのLD-BOXがありまして、『狂鬼人間』も見る気になればいつでも見られるのが密かな自慢だったりします(←器の小さいヤツ)。

投稿: ぶるない | 2006.11.30 00:56

わぁー、この記事のタイミングが・・・。「怪奇大作戦」の監督も務められた実相寺昭雄さんがお亡くなりになりましたね。先に佐々木守さんも亡くなられているので特撮ファンの方々にはとても寂しい年となりましたね。

投稿: 狩人 | 2006.11.30 20:19

実相寺監督については別項で取り上げましたが、ほんと、今年はこんな訃報が多すぎます。「まだ31日残っている」と考えてしまうと、正直気が重くなりますね。

投稿: ぶるない | 2006.11.30 23:51

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