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2007.09.01

『知られざる日本の恐竜文化』

 正直、この本が想定している読者層が分からない。濃いめの恐竜ファンなのか、そうでないのか。少なくとも前者ではあるまい。冒頭に断り書きがある。

 本書がおもにとりあげるのは、日本および海外の(オタク的)恐竜文化と、そこに携わる人々の行動や心情にかかわる話題である。サブカルチャーとしての恐竜を扱った本は、これまでに類例がまったくないとは言わないが、きわめて珍しいだろうと思う。 (P.10)

 …そりゃそうでしょうよ。「知られざる日本の恐竜文化」(著:金子隆一、祥伝社新書)の大部分は、そんな金子氏の業界(?)批判ともグチとも取れる文章で埋まっている。しかしながら、恐竜オタクの金子氏の記述には特撮オタクの端くれとして首をひねりたくなるものもある。

―ゴジラ・マニアは各作品を独特の符丁で呼ぶ。〔中略〕アニメ「とっとこハム太郎」と併映された前作(引用者註:2001年公開の『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』のこと)は「ハムゴジ」という具合― (P.82)

 『大怪獣総攻撃』のゴジラを「ハムゴジ」と呼ぶ人を、おれは見たことも聞いたこともない。さらに付け加えると、ファンが「独特の符丁で呼ぶ」のは作品ではなく、ゴジラの着ぐるみそのもののことである。他にも「2006年までシリーズは継続」というとんちんかんな記述も見られる(現時点での最終作『ゴジラ FINAL WARS』は2004年公開)。やっぱり平成ゴジラは真面目に見ていなかったんだろうな。本文中の別の箇所でオタキングの著書の誤りを指摘している一方で、これはあんまりではないのか。

 また、著者の「オレはこんなに物を知ってるのに、他のやつらはあまりにも物を知らん」という思考パターンが随所に散見されており、思わず鼻白んでしまう箇所が少なくない。『宇宙空母ブルーノア』(具体的に作品名は挙げられていないが「戦艦ではなく空母が宇宙を飛ぶ」のくだりを読めばおのずと明らか)の設定に関わった際に、他のスタッフが科学的常識を持っていなかったことを嘆きながらも、ある人物だけが理解を示してくれたことを記した文章をこう結んでいる。

 そうか、やっぱりあの人もこちらでは居心地が悪かったんだろうなあ。「オフィス・アカデミー」の総帥、西崎御大もあの人とは反りが合わなかったらしく、他の人はちゃんと名字を読んでいたのに、あの人だけは名前を呼びすてだった。「おいヤスヒコ、おいヤスヒコ」と……。 (P.111)

 著者はうまくオトしたつもりなんだろうが、安彦良和が第1作から『新たなる旅立ち』までヤマトに関わっていたことを知っている人間はただしらけるだけである。「反りが合わない」人間をそんな長期にわたってスタッフとして起用するものだろうか?

 著作自体の内容がグチっぽいので思わずこちらの感想もグチっぽくなってしまったが、見るべき点がないわけではない。恐竜絶滅の仮説として広く人口に膾炙している天体衝突説が、地球科学の研究者の間で半ば否定されているというのは寡聞にして知らなかった。

 いかなるジャンルであれ、最新情報に対するアンテナを動かしていないと、いい意味でのオタクでありつづけることはできない。そして、そうでない人たちの懐を当て込んだ安易な恐竜ビジネスは、その濃度をどんどん薄めながら今後も日本を舞台に展開されていくのだろう。

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